ベッドに腰かけて、再度時計を確認したら、電話を前に、静寂と持参した電話帳に意識を向ける。
今のようにスマートフォンはなく、着いたよとお客に連絡するにも電話。
幸い、市内通話は無料のアブダビ。
受話器を上げ、外線をつなぐ0を押し、ダイヤルする。
2-3回のコールで、社名とMay I help you? が聞こえた。
名前と会社名をつげ、今 ホテルに着いたと話すと、大歓迎の声。
”Welcome! Welcome to Abu Dhabi!”
ドバイからアブダビまで 殆ど喋らなかったから、この歓迎が嬉しかった。
訛りはあったけど英語、聞き取れたし~ と小さな安堵も。
「何時に行けばいいだろう?」
「いつでもいい。今からでも大丈夫。ホテルはどこだ?」
「xxホテル。」
「事務所からすぐだから、迎えに行くよ。5分で着くから」
「ありがとう じゃあロビーで待ってるね」
簡単な会話。受話器をおいたら 勢いがつく。
書類、手土産を確認したら、スーツに着替えてロビーへ。
社長が持たせてくれた手土産の中で、比較的大きくて重いものが
アブダビで1つおわる。
ロビーで待っていると、背の高い男性が入ってきて、声を掛けてきた。
当時アジア人女性が、一人ビジネススーツをきて待っているのは珍しく、すぐに発見してもらえた。
(今も中東では 同じかも知れない)
握手と自己紹介をすると、彼は、すぐに 車はこっちだと言いながら、
私の手荷物に何気に手をだし、ささっと持ちあげた。
”あ~ここは日本じゃない。
荷物は男性が持ってくれるのが普通なんだな” そう思った記憶は今も鮮明だ。
左ハンドルというのも日本と違う。
それも頭に入っておらず、左側に回ると、彼は 後ろのドアを開けた。
え?後ろに乗るの?
彼をタクシードライバー扱いにする後ろにのって
失礼じゃないのか戸惑いつつ、導かれるまま後ろに乗り込む。
他人の男女が 運転席と助手席にのるのは 中近東では厳しい視線に
さらされることも知らなった。
本当に5分ほどで事務所についたが、ドバイからアブダビに入り見た、
高層ビルが立ち並ぶ道沿いだったことに気づく。
車は駐車場に停車され、ビルに向かい歩く歩道は、3mほど。
激しく往来する車の喧噪と、ゆったりした歩道をゆく空間が不思議だった。
案内され、ビルの1つの中に入る。会社の看板など見えない。
歩道をゆっくり、探す気で目を回さないと分からないほど、
社名を印刷した小さなのステッカーが窓ガラスに貼られていた。一枚。
高層ビルと小さな一枚のステッカーの差が 愉快だった。
通された1階、グランドフロアーは、ショールーム兼販売店になっていた。
入ると正面に 5m近くの広いカウンターがあり、数名のインド人が腰かけていた。
後で聞けば、皆縁戚だった。ここのオーナーは、そういう採用の仕方をしていた。
2階に通され、会議室に入る。2階は、がらんとしていて、会議室、お茶室、そして7~8人が
座れるカーペットが 大きな窓に向かう方向に敷かれていた。
何を飲むか聞かれたが、紅茶か?と聞き直され、Yes, pleaseと応える。
紅茶が来たが、そのまま待てといわれ、放置された。
どうなるんだろう?
少し待ったが、誰もこないし、また一人でいるのは飽きた。
一階の展示室が見たくて仕方なかった私は、会議室を出て1階へ行くと
背の高い彼が 他の社員と一緒に1階でくつろいでいることに気づいた。
あ~、責任者を待っているのだな と悟った私は、展示室を見てもいいかと聞いてみた。
「どんどん見てくれ」と、一人のインド人が近づいてきた。
ちょっと主任といったところだろうか。
商品1つ1つを前に、ブランドとスペックを話してくれる。
Welcomeと電話口で話した人はこの人だと、声と訛りで分かった。
初めて聞くブランドもあり、どこの国のものか聞くと
国と共に、特長を話してくれる。
良く売れているか 売れていないか、も話してくれる。
なんてユニークな案内だろう。はっきり言うなあ。
ふと、カウンターの方がざわついた。
みんな立ち上がっている中に、アラビアの民族衣装を来た人物がいて、
一人一人に挨拶をしていた。
アッサラームといい、胸に手をおき、おはようといい、調子はどうか?と聞いている
握手をする場合もある。
毎回こんなことをするのだろうか? あきらかにインド人たちの、儀礼スマイルがわかる。
そして私に気づいた?そのアラブ衣装の彼は、にっこり微笑んで、私の名を呼び、
近づきながら 手を差し出してきた。
Nice to meet you
Welcome to Abu Dhabi.
How was your flight?
綺麗な英語だった。これなら商談しても大丈夫。
そして、彼は、展示商品の案内役になり、続きを話してくれた。
お前から買った商品も ここにある。
これは、いいが、これは問題だ、後で話そう。。。
え、いきなり核心の話題が出てきたなという思い。
こちらの客先に出荷した ある商品モデルがトラブルを起こしていたのだ。
それを以前から知っていたが、上司が殆ど対応していたし、この件で上司とは
打合せがなかった。メーカーの人からの説明は受けていたのが幸いだった。
展示品を一通りみて、さあ二階の会議室へ。
アラブの衣装を着ている彼は、もちろんUAE人。オーナーの孫である。
ちなみにUAEの人口で、UAE人は、今や10%。30%という説もあるが、
とにかく その他は、外国人労働者の方たちなのだ。これは、中東の歴史。
オーナーの孫は、用意していた言うべき言葉を話し出した。
”日本製は、爺さんの頃から扱ってきた。
我が社は日本製の高品質によって、お客の信頼を得てきた。
お客は、日本製といえば、我が社に来てくれる。問題は 価格だ。
お客に高いと言われている。
俺は、爺さんからファイナンスを任されている。価格の管理もある。
そして、モデルによっては、大量の在庫もある。これは日本製にしては安いが、売れ行きがよくない。
クレームもある。今後どうやって売るのか 考えなきゃならない”
Let’s talk about our huge stock だった。
ふむ、、つまり、、高くて在庫も結構あるから、注文できないっていう匂わしと、
売ってしまった商品への協力ですかあ??
言葉で意識はしていなかったが、表面意識と潜在意識の間のところで、
そう感じていた。
ちなみに私は、出張に出るまでの年数が長かった。
会社として、女性を中東に出張させるなど、考えてもいなかったからだ。
この間に、私は、交信で受注する、クレーム対応するという事をやってきた。
中東に慣れるまでは、中東経験者の方に 色々と話を聞いたし、
どういう国々なのかと本も結構読んだ。
頭でっかちになってはいたが、中東諸国の交渉ステップには、既に慣れていた。
クレーム、大量在庫、高い と言われても、全く動じることなく居れた。
まあ、とにかく、在庫をどうやってはかすか協議しよう というのだから、
そうしましょう と思い、少し身体を前に出して始めた。
「どのモデルが 沢山残ってるの?」