砂漠の中の一本道を横切る高速が見えてきた。
タクシーが突然にスピードを落としたら、ガソリンスタンドが見えてきた。
車をとめ、ドライバーが聞く
”coffee?”
”no thanks”
ガソリン給油と思いきや、単に 休憩だった。
そりゃそうだ。 ずっと、黙って二人で走ってきた。
私は、物珍しくて、 右に左に目をやり、倉庫らしき建物が並ぶ一角に、日本ブランドのロゴや、国際輸送会社のロゴを見つけて 写真を撮る始末。
ドライバーは 退屈だし、眠かったのだろう。
それにしても、ずっと走ってきて、ここに来るまで、店なんて何もなかった。
よくもまあ 私も飽きずに砂漠を見ていたことだな。
そんな事を思っていると、紙コップのコーヒーを持って ドライバーが戻ってきた。まずそうな色だった。よかった頼まなくて。
ガソリンスタンドを出て、横切る高速をくぐり、15分ほどすると、ぽつぽつ建物が見え始めた。
公共機関らしき建物、建設中のモスク、学校。
日本の赤レンガの色を薄くした、ほぼピンクオレンジに近い建物が目に付く。
道も もはや一本道ではなくなり、信号機もある。
アブダビに入ったようだった。
さらに、15分ほどすると、10階以上のビルが道沿いにずらっと並ぶ景色が始まる。
アブダビ市内だ。
日本とは違い、道路の広さ、ゆったりした街並みを楽しんでいた。
つと、どこに行くかドライバーが聞いてきたので、ホテルの名前をつげ、持ってきたホテルへのアクセス地図を渡す。ドライバーは全く迷わずにホテルまでつけてくれた。
結局ドライバーと話さずに終わってしまった。
ドライバーと別れ、ホテルレセプションへ。
このホテルは お客が予約してくれた。5つ星ではないが、いいホテルだった。
まだチェックイン時間ではないが、受付はこだわる様子もなく、パスポートを求め、何やら確認して、ルームキーをくれた。
ベルボーイが荷物を部屋まで運び入れ、空調のリモコンの場所、バスルーム、朝食の場所を
仰々しく案内して出ていくのを ひたすら我慢した。
一人になった部屋で、じっくり見まわす。 ベッドの大きさにたまげた。
でも気持ちよさそう。
気になったのは、部屋の中が暗めであり、部屋の広さに対して窓が小さめであること。
それでもすぐさま、私の癖ともいえる、窓から見える景色を、写真におさめた。
プールが見えた。青々、なみなみしている。 ヨーロッパ人の家族がいる。
まだ、パソコン持参どころか、会社との交信も、ファックスか電話が主な頃だった。
”ビジネスセンターの場所を確認するように”
これも社長の注意点の1つだった。
備えつけのホテルのレターヘッドを取り出し、
これまでの上司と同じことを列挙する。
部屋番号
現地時間と日本との時差
到着まで何もなく無事に来れたこと。
(ちょっとした 面白いお話があれば味付けに)
面談の相手先と時間
書き終わり、ビジネスセンターへいき、ファックス送信を依頼。
そこそこ広く、タワー型パソコンが3台くらい設置されていた。
次は ここに来てメールを打ってみよう。
流れたというメッセージをつけて ファックスは返却される。
これで今後の日本との交信が円滑に進む。
部屋に戻り、ベッドの反動を確かめつつ そっと腰かけ、静けさを確かめた。
何も聞こえない。不安になるくらい静かだった。
自分に、何をしたい聞いてみた。
コーヒーが飲みたい。
ドバイ空港からここまで、長かった。 商談の時間までに一時間弱余裕があるのを確かめ、
持参したドリップコーヒーを飲む。
中東のホテルには 必ず 電気ポット、ミネラルウォーター2本、ガラスコップ、コーヒーカップ、
ネスカフェ、リプトン紅茶 はそろっている。
ベッドに横たわり、体の調子を感じるが、緊張も何もなかった。
お客さん、何も連絡がないけど、約束の時間、覚えてるかな。
少し不安になりつつ、商談の資料を確認し、鞄に入れた。
カタログ、
見積、
手土産もあった。
初めてということで、社長が気遣って、用意させてくれたのだ。
つまり、土産だけが入ったカバンが1つ キャリーケース以外にあるのだ。
これが空になるのは、2週間後だ。
もう少ししたら、お客に電話をしよう。
これも、これまでの上司のやり方を真似たもの。